………。
……。
「…朝だな」
陽光の差し込む室内を眺めながら思わず呟いてしまう。
「何事もなく朝を迎えた…」
いつも真琴に悩まされていたため、平和裡に朝の光を浴びれることが信じられなかった。
あいつも人としての常識はあるらしい。
不意の来訪者が来ているときに騒ぎを起こしたら、どんな先入観を持たれるか。
着替えて廊下に出る。
そこでふと、あの少女の状態が気になった。
結局少女は夕食にも夜中にも目覚めることはなかった。
「……」
『なゆきの部屋』のプレートが下がった扉からは、物音一つしない。
この時間なら、名雪はまだ寝ているだろう。もっとも彼女の方は分からないが…。
……。
たとえ起きたとしても、まずびっくりして、出て行きづらいだろう。
俺は黙って素通りすることにした。
洗面台で顔を洗い食卓へ。
いつもと同じペースで朝食を取り…
「うぐぅ…祐一君、いじわる…」
金曜に引き続き、何故か食卓についていたあゆに突っ込まれる。
秋子さん曰く、
「また、わたしが誘ったんですよ」
「食事はひとりでも多いほうが楽しいですから」
らしい。
だが、見知らぬ他人を朝っぱらから食卓に招いてしまう秋子さんの度量は、ただ人のそれではないと思う。
「ねぇ、祐一君今日はなにか予定ある?」
あゆが聞いてきた。
正直に予定がないと答えると、
「一緒に遊ぼうと思ったんだけど」
遊びに誘ってきた。
考えてみれば、あゆとは出会うということはあっても遊ぶということはなかった。
「日曜日だもん、遊ばないと」
「俺は構わないけど……」
いったん承諾しかけたが、すぐまたそれを飲み込む。
「やっぱやめとく」
あやうく2階に寝ている少女を忘れるところだった。
あゆにはすまないと思ったが、彼女が目を覚ましたとき、拾ってきた俺は居る義務がある。
「そっか、都合が悪いんなら仕方ないね」
理由も聞かずにあゆは納得していた。
「ボクもまだ探し物が見つかってないから、今日もそっちを頑張るよ、ばいばい、祐一君」
それだけ言うとあゆはあわただしく席を立っていってしまった。
(……何しに来たんだ、あいつは。)
入れ代わりに名雪が入ってくる。
「名雪、あの子、様子どうだ?」
「だ? ……だおー」
名雪は、まだ完全に寝ぼけていた。
「……とりあえず俺は部屋に戻ってますんで」
ここにいても仕方ないので、俺も食卓を後にする。
「ええ」
応えた秋子さんの目には何故か咎めるような光が浮かんでいたが、それを問いただす気にはなれなかった。
「祐一~、お昼だよ~」
読書(雑誌)に没頭し、気がつくと時間は昼になっていた。
下り際に真琴の部屋のドアをノックする。
「おい、いつまで寝てるんだ?」
一応ノックし、ドアを開けてみる。
「……」
中はもぬけの殻だった
「……秋子さん、真琴見ました?」
「いいえ?」
その答えを聞いて俺は確信した。
記憶が戻ったのだ、あいつは。そして、夜中こっそりと出ていったに違いない。
朝だったら、早起きする秋子さんが間違いなく気づくはずだ。
出て行くなら礼の一つくらい言っていって欲しかったが、アレだけ問題を起こした手前、照れくさかったんだろう。
まぁ、これで迷惑をかけるものはいなくなったわけだ。
バタン!
しかしその時、二階でドアの閉まる音がした。
「真琴?」
「違う、名雪」
答えは俺の思った通りだった。
間もなく不安げな顔で、紫色の髪の少女がリビングに姿を現した。
名雪が後で着替えさせたのだろう。彼女はパジャマ姿だった。
「おはよう、姫川さん」
とりあえず挨拶する。
いきなり名前を呼ばれたせいだろうか、少女はびくりと肩を震わせた。
「心配しなくていい。とって食ったりはしない」
「……祐一、ひどい」
「あ、あの…」
ジョークのつもりだったが、かえって彼女の不安を増大させてしまった様だ。
「あぁ、名前か? 悪いとは思ったけど、勝手に調べさせてもらったから」
「そうですか…」
うつむき加減に少女は応えた。無理もない。
「倒れて、気づいたら知らない家の中じゃ、びっくりするよな」
「やはりわたし、倒れたんですか…」
「すごかったんだぜ、突然商店街のウインドーが粉々に砕けて、そしたら急にあんたが倒れて」
俺は彼女が意識を失った時の様子を話して聞かせた。
すると、
「…わたし、また…っ」
途端に彼女は激しく涙を溢れさせ、パジャマ姿のまま外に飛び出そうとし始めた。
「ちょっと待って、そんな格好でどこに出ていくの?」
慌てて名雪が肩を掴んだが、あまりの取り乱し方に、言い出した俺の方が固まってしまった。
「わたしのせいなんです、わたしのっ…謝らないとっ!!」
「祐一、泣かせた」
名雪が非難の視線を向けてくる。
「お、俺は何もしてないぞ、今度こそ!」
何が彼女のせいかは分からなかったが、その言葉には納得させられる響きがあった。
彼女が苦しみ出して耳鳴りが始まり、絶叫したらガラスが割れた。何らかの因果関係を疑ってもおかしくない。
けど。
「まずご飯を食べて少し落ちつきなさい。あなた、昨日から何もお腹に入っていないのよ?」
「ん、ぁあ……」
「謝りに行くのはそれからでもいいでしょう?」
全く、秋子さんの言うとおりだった。
「そういえばこっちはまだ自己紹介してなかったな。俺は相沢祐一。この家の居候だ」
「あちらが水瀬秋子さん、この水瀬家の家主だ」
「で、こいつが秋子さんの娘さんの名雪。俺と幼なじみのいとこだ」
わたしがテーブルについたところで相沢さんは家の人間の紹介をはじめました。
さっき取り乱してしまった恥ずかしさで、わたしは身を硬くしていました。
なんとか落ちつこうとしたけれど、名雪さんの紹介をされたとき、自分でもわかるくらい強く反応してしまいました。
「…姫川、琴音です」
わたしも自己紹介をします。とはいっても、向こうはすでに知っていることですけど。
「姫川さん、お歳は?」
「高校、1年です」
「ということは俺らの一つ下か」
「どこの高校?」
名雪さんがわたしに聞きました。
遠い地で、見ず知らずのわたしを助けてくれた方々に、黙っていることはできません。
わたしは答えました。同時に持ってきた生徒手帳をテーブルに置きます。
とたんに、相沢さんがいぶかしそうな目をしました。
「内地の学校ですから」
慌ててフォローしましたが、その視線はわたしに向けられたものではありませんでした。
すぐに、ぺしっという音がして、名雪さんが頭を抑えました。
「痛いよ祐一…」
「真面目に持ち物調べたのか、お前は」
「文句があるなら祐一が自分でやってよ…」
「できるかぁっ!」
ふと、その姿が嫌な光景に重なりました。
あぁ、顔が、目の前の光景を嫌がって歪んでる…
けれど運良く、わたしの表情の変化に気づいた人はいませんでした
「――って、関東近郊の学校じゃないか。なんでまた今ごろこんなところへ?」
物思いから還ると、相沢さんがわたしに尋ねていました。
真っ先に浮かぶ疑問でしょう。関東の学校が北国より冬休みが長いなんて、普通ありえないことですから。
「……」
わたしは答えませんでした。答えられませんでした。
「家出か?」
いいえ。違うんです。
「祐一さん」
でも、ある意味そうかもしれませんね…
「どなたか知り合いの方でもいらっしゃるんですか、幼なじみとか」
「いいえ、そうじゃないんです…」
また…。
たった一つの単語なのに。
自分の嫉妬深さが、こわくなりました。
「訳あり、みたいだな」
間もなく、3人前のラーメンが運ばれてきた。
「なると、なると」
「じっと見てると、吸い込まれるぞ」
なるとを回して遊ぶ名雪と戯れながらも、彼女からは目を離さない。
「……」
彼女のラーメンは、置かれてからほとんど減っていなかった。
「多すぎましたか?」
「いえ…」
「おかあさん、熱あるみたい」
自分と彼女の額に手を当て名雪が言う。
「疲れているのね。…どこか行く当てはあるんですか?」
「いいえ…」
「その体調で出歩くのは無理ね。今日1日、うちでゆっくり休んでください」
優しい声で秋子さんが提案した。
「すみません…」
「いいのよ、気にしなくて」
さっきまであれほど焦っていた彼女も、安心したのか素直に申し出を受けた。
この辺が、年季とか歳の功とかと云うのだろうか…
昼過ぎにオレは街の駅に到着した。
すぐさま駅員に紫色の髪の少女が通らなかったかどうか確かめる。
「この街の人間はみんな紫色の髪なのか!」
なんてアホなことも考えていたが、幸いなことにここでも琴音ちゃんの紫色は珍しく、昨日見かけたという情報を入手した。
「彼女家出して……オレは兄なんです」
あぁ、はズかし。
もうベッタベタの言いわけを使い、オレはなんとか駅員に、琴音ちゃんを見かけたら駅に止めてくれるよう約束を取りつけた。
見た感じ、この街から電車を使う以外に遠くに行く方法はなさそうだ。
琴音ちゃんが車やバイクをかっぱらって街を出るとは考えづらいから、駅を押さえてしまえばこっちのものだ。捜索範囲をこの街のみに限定することができる。
他人の車に乗せられていくという可能性はあえて考えないことにした。そこまで自暴自棄になっていないことを祈りたい。
ついでにこの街で一番安い宿泊施設も教えてもらう。
……そこ、笑うな。生活の知恵だ。手持ちの実弾が尽きたら、そこでオレの捜索はアウトなのだ。
「宿に行く前にひと探しすっか」
オレは地図を入手しに、商店街に足を向けた。
商店街はかなり賑わっていた。
温かみのある路材の色と固まって残る雪とが、異郷へ来たことをしみじみと感じさせる。
ざっと商店街の案内板を見たが、さすが北の街。商店街も規模がでけーぜ。
「探してる内にすれ違ってもおかしくねーぞ、これじゃ…」
まず、どっから手をつけるかな…。
立ち止まって考え込んだ矢先、
「祐一君っ!」
どかっ。
ごき。
「うおおおわぁぁっ?!」
背後から突然攻撃を食らい、オレは景気よく雪の上に倒れた。
「あ、あれ?」
跳びかかってきた奴が、不思議そうな声をあげる。
ややあって、
「うぐぅ…間違えた…」
オレの上に乗っかったまま、呑気なセリフをそいつは続けた。
「うぐぅ、体中雪だらけ…」
どうでもいいけど、いい加減どけよ。
濁った雪に擦られ、押し付けられている顔が冷たさでひりひりしてきた。
「いつまでのっかってるんだ?」
「………あっ!」
およそ3秒の間ののち、マルチばりの動きでそいつは飛びのいた。
「ごめんなさいっ、後ろ姿が似てたから……」
犯人はダッフルコートを着てブーツを履き、赤いカチューシャをつけた羽付きの奇妙な生き物だった。
「てっきり祐一君がボクを手伝いに来てくれたかと思って…」
訂正。
よく観察すると、背中に生えている羽はリュックについてるだけだ。
…見た感じ、琴音ちゃんよりも年下、だな。
「要は知り合いに似てたんだな、オレが」
「うん…」
「ま、いいぜ。これからはちゃんと確認してとびつけよ」
変な音を立てた首が心配だが、相手が相手だけに怒ってみても仕方ない。ここは寛大に接しておこう。
もっとも、相手が本命だったとしてもさぞ迷惑だろーな。
同情するぞ、祐一。
「うぐぅ」
「変な返事だな」
「うぐぅ…ほっといて」
「うぐぅ」
「まねしないで~」
やはり外見通りあまり年はいっていないようだ。とりあえず、面白い。
「しっかしいつもこんな挨拶してんのかお前は…」
「たまたまだよっ」
恨むぞ、祐一。
「ということは、この街のあいさつじゃないんだな」
「当たり前だよっ」
「よかった…」
「うぐぅ、祐一君と同じでいじわる…」
事情はともかく、これはラッキーだ。向こうから突っ込んできてくれたおかげで、話しかける手間が省けたぜ。
「なぁおまえ、最近紫色の髪をした女の子、見なかったか?」
オレは聞いてみた。
「う~ん、そんな子、見ないよ」
「そうか…」
「探してるの?」
「あぁ」
ヤバい。
話の流れからこの次に続くのは、『オレと琴音ちゃんの関係』だろう。
さっきみたいな嘘じゃ、この子の雰囲気的にまともに信じこんじまいそうだ。もし見つけたときに、話がややこしくなる。
なにかいいウソを…考えろ、考えるんだオレ。
ところが、
「そっか。最近ボクもこの商店街で探し物をしてるんだ、見つけたら教えるよっ」
オレにとって非常にありがたい答えが返ってきた。
「いや、オレもお前の探し物に協力するから、一緒に探してくれ」
嬉しさのあまり、オレの方から協力を申し出た。
闇雲に探し回るより、土地勘のある人間がいたほうが断然有利なはずだ。
偶然とはいえ、せっかくの機会を利用しない手はない。
「うん、いいよっ」
よしっ。のっけからついてるなオレ。
「それならお互い名前を知らないと不便だよね。ボクはあゆ。月宮あゆだよ」
「オレは藤田浩之だ、よろしくなあゆ」
「ねぇ、探してる女の子って、どんな子なのかな」
さっそくあゆが聞いてきた。
「あぁ、名前は姫川琴音、オレの一つ下で高校一年、身長は…」
「ふぅん、ボクの一つ下なんだ」
オレの耳が、ただならぬ情報をキャッチした。
「はあぁぁぁ!? 嘘だろ、お前、高校2年か!?」
オレの目にはどう高く見積もっても中学生、正直なところ小学せ…
「そうだよっ」
「嘘つくな!」
「嘘じゃないよっ!」
「いいや、その外見からして絶対絶対絶対に…」
「絶対に、何なのかな?」
あゆは、笑っていた。
だが眼と声は、不機嫌な時のいいんちょとタメを張れるくらい、冷たい。
「いや、なんでもない」
怖い。続きを話すのはやめよう。
「じゃあ、早速探すか」
「うんっ、よろしくねヒロくんっ」
ヒロくん…
まだ大いに疑いは残るが、さっきの形相からすると本当っぽいので無理矢理信じておこう、うん。
しかし、初めて呼ばれたが『ヒロくん』ねぇ。
なかなかいいかもしんねーな。あかりの『浩之ちゃん』に比べれば大分マシだ。
「はやくいこっ」
さっそくオレたちは捜索を開始した。
だが、歩き出して早々、オレは凄まじいものを目にすることになった。
ガス爆発でもあったように、ショーウインドーが粉々に壊れた店舗たち。
間違いない。これは琴音ちゃんの仕業だ。
琴音ちゃん、まさか『チカラ』が制御できなくなってるのか?
予想以上にやべえぞ。早く見つけないと大変なことになる……。
辺りの日の光が消え去り、夕食の時間になって、彼女は再び姿を見せた。
「気分はどう?」
下りてきた彼女に、名雪が真っ先に声をかける。
「…はい、おかげさまで、すっかりよくなりました。ご迷惑をおかけしました」
「…そろそろ聞かせてくれるか、この街に来た理由」
山のように聞きたい事はあったが、無難そうなところから俺は切り出した。
……。
「夢、か…」
彼女の話によると、理由はやはり家出。この街を選んだ理由は、数日前に夢で出てきたということだけらしい。
もっとも、真琴という前例があるだけに、本当であるかは未知数だ。
「おかしいですよね、そんなことで出てきてしまうんですから」
信憑性は段違いだが。
「全然知らないのこの街? 昔いたとか」
「いえ、全く記憶にはありません…」
「とりあえず両親に連絡した方がいいんじゃないですか」
秋子さんに視線を移し、促してみる。
しかし秋子さんはかぶりを振った。
「たぶん、繋がらないと思います。二人とも仕事が忙しいから……」
はっきりしたことは言えない。が、今の声の調子では、彼女は両親にあまりいい感情を持ってなさそうだった。
「昼間、『わたしのせい』とおっしゃってましたね、あれはどういうことなのですか?」
珍しく秋子さんが質問した。
聞いてる内容は非常にきついのだが、例によってその言葉尻には人を安心させる響きがある。
ややためらったあと、彼女が重い口を開いた。
「……わたしの、『チカラ』のせいなんです」
「『チカラ』?」
「一般に超能力と呼ばれているのと、同じものです」
あまりにも唐突過ぎて俺は言葉を失った。
非科学的なことは好きだし、あったらいいとも思う。が、あくまで空想上での話。実在などするわけがない。
嘘をつくにしたって、もっとマシなのをつけばいいものを。
「超能力なんて……」
俺の気持ちを代弁し名雪が失言した。
その答えを予想していたのか、彼女は悲しそうに目を伏せた。
「皆さん、言っても信じないんですよね、目には、見えませんから……」
その言葉が終わったとたん、また耳鳴り――昨日のよりはずっと弱い――が始まった。
彼女は両こぶしを握り締め、少し眉間をよせている。
瞬転。
テーブルの上の皿が2枚、宙に浮いた。
「……!」
30センチは上がっただろうか。次に2枚の皿は、空中で回転を始めた。
浮かされたような心地で皿の下に手を入れてみるが、そこにはなんの手応えも無い。
やがて空中で静止すると、皿は音も立てずにゆっくりと元の位置に降りたった。
「――これが、『チカラ』です」
彼女の言葉で、俺はようやく我に還った。
「……」
ほんの数十秒前まで、俺は超常現象の存在を一切信じていなかった。
だがこれだけ明確な証拠を突きつけられて、疑う余地がどこにあろう。
間違いなく、超能力は実在する。そして彼女は、それを行使できるのだ。
なんて、ことだ。
「あらあら」
「ふしぎ~」
しかし、この二人にかかればそんな大事件もその程度で済まされるらしい。
「いつもは制御できていたんですけど、あの時、疲れていたせいで、だから…」
つまり、あの惨事は、この力の暴走が原因だと言いたいらしい。
そこで言葉が嗚咽に変わった。
「…わたし、また…っ」
「疲れてたから、上手く行かなかったんですよ」
「はい…」
「誰だって、失敗の一つや二つあるよ」
「一晩たてばよくなりますよ」
秋子さんがすかさず言葉をかける。
どうやらいつもの様に、彼女を泊める気らしい。
「あ……」
「その体調で今から宿を探すのは無理よ」
彼女の口から出てきそうだったものを、秋子さんは先回りしてとどめた。
「……すみません」
「ぜんぜんおっけーだよ」
名雪の言葉で、その場はお開きとなった。
「超能力ってほんとにあるんだね」
寝る間際、名雪が話しかけてきた。
「あぁ、俺も心底驚いた」
「私もほしいなぁ。祐一が嘘ついたら、タライを頭にぶつけてね」
楽しそうに話し続ける名雪を、俺はいつになく厳しく睨みつけた。
名雪も秋子さんも、あの瞬間を目撃していないからこんなに気楽なんだ。
あれが身体が光る程度だったら、俺も軽口の一つも叩いたかもしれない。
だがあの力は、一歩間違えれば人の命さえ奪いかねない、危険な代物だ。
羨ましいなんてとんでもない。あんなのを持って生きるのは、いつ炸裂するかわからない爆弾と共に過ごすようなものだ。
……。
――それは俺以外の他人も同じように思う……。
彼女が飛び出してきた理由には、どうもあの超能力が関係しているようだ。
たとえ、今まであそこまで大きな破壊や傷害がなかったとしても、だ。
何の縁か、俺達は彼女に関わりを持った。
本当に行く当てがないのなら、真琴のように当てが見つかるまで家におくことになるだろう。
その時俺達は彼女をケアしなければならないし、間違っても追い詰めてはならない。
冷え切ったベッドに入る。
眠りに落ちようとする俺の中で、ずっと何かが引っかかっていた。
(あの子、どうしてこの街へ来たんだ…)
そんな言葉では、とても表せないようなものが……
結局、真琴は戻ってこなかった。