2006年01月20日

よし、今年は大丈夫。

年頭にあげた目標の「歌題材SS」のプレバージョンとして、『オトメロディー』で書いたSSもどきをおいておきます。
ブランク解消のため、凝らず、捻らず、飾らずに書いたら、香里SSになっていました。口汚い言い方をすればもう使い古されすぎたネタで、普段ならJUNKに放り込むんですけれどね。今年は極力あの場を使わずに行こう、と言うのも目標の一つなので。
まぁ、題材が『オトメロディー』なのに、書いている時に聞いていたのはClannadの『町,時の流れ,人』というあたりで、すでに問題な気もしますけど(笑)



《オトメロディー》



 女の子って、魔法で作られたの――。
 ほんと、そうよね。
 魔法みたいに、あの子は、私の前から、唐突に、姿を消してしまった。


 春の気配は苦手だった。
 底抜けに晴れた空、胸をざわつかせる空気は、幸せな人間と不幸せな人間を、偉そうなぐらいに分けてしまう。
 誕生日を過ぎると、いつもこの感慨に囚われ、そのたび私は、嫌だな、と思っていた。
 悪夢だけれど、夢じゃなかった。
 あの子は精一杯生き、さまざまな心残り――特に姉の私に対しての――を残して、この世から消えてしまった。
 いつか死ぬ。だから、最初からいなかったって思おう。
 そんな論理で身を守ろうとした私は、「誰かを失う」ということを、きっとわかっていなかった、のだと思う。
 地響きのような音を立てながら、あるいは時がもどかしいぐらいに遅くなってゆきながら、人はいなくなるのだと、どこかで信じていた、そんな気がする。
 けれど、あの子がいなくなっても、家族でご飯を食べた。お風呂にも入った。服を着た。泣いてもいつの間にか眠った。
 ありとあらゆる媒体で学んでいた「喪失」「変化」は、起こらないのだと知った。
 反発するように私は、一般的な優等生――成績が劣等な生徒を露骨に蔑み、校内の日常話題に耳を貸さない――仮面をかぶってみた。大して難しいことでもなかった。その変化も、さざなみを起こしたぐらいで、すぐに消えうせた。
 私は、悲しみを求めていた。自分を変えてしまうほどの、大きな変化に、飢えていた。だけれどその気持ちを届けたくても、私には、いまさら、唇に乗せられる歌がなかった。
 私は、歌を知らなかった。
 子供の時から栞を見ていた私には、歌の全てが、哀れで幼く思えた。どんな歌詞も、目の前の現実を知らないだけ。なら、私には必要ない。
 ずっと、そう思っていた。


 けれど、学校から帰って着替え、いつものように主のいなくなったベッドを見た時に、変な歌が口をついて出てきたのだ。
 それは、病院に泊って傍のエクストラベットで眠りこけた翌日、ふらふらする頭を振って自販機に買出しに行った頃、ホールのテレビでやっていた、何かのアニメソング。
 そのキャラクターが、部屋にあったわけじゃない。思い出したきっかけは、わからない。にもかかわらず、その曲は、きちんと頭から、歌詞を伴って、再生できた。
 はじめは、オルゴール音に直された、感傷的な旋律の速度で流れ出した。けれども、間の抜けた歌詞が、いつまでもそれを許してはくれなかった。ハートぐるぐる巻きしちゃうなんて、胸が張り裂けそうなエモーションで歌い続けられるわけがない。
 バカみたいにおかしかった。
 だって、私よ。美坂香里よ?
 学校で一番の成績で、ドラマの意地悪な姉の真似をして、漫画に出て来る嫌な奴みたいな振る舞いをしてもなお、男に寄り付かれたあの美坂香里よ?
 それが、真顔で、久しぶりに歌った歌が「すきすきすー、ふわふわふー」って。
 どんな冗談より、人をしらけさせて、笑わせる自信があるわ。
 感情を込めて、強弱まで真似て。あの子でさえ手に取らないような、子供向けのアニメの歌を、私は本気になって歌ってみた。
 見事に歌いきると、嗤うのも忘れて、私は笑った。もう一人の自分が、もう一人の自分をここまでウケさせてくれるなんて思わなかった。
 おかしくて笑っているうちに、喉がつっかえ、息がひどく苦しくなった。
 胸の中、一番硬く骨で覆われているはずの場所が痛い。部屋の空気が目に激しく染みる。
 こんなところに心はないんだって、とうの昔に、わかってるっていうのに。ほこりの一つも舞い上がっていないっていうのに。
 こんなに笑えるなら、もっと笑っておけばよかった。こんなバカなことが出来るなら、見せてあげればよかった。
 冬の外でバニラアイスクリームを食べることさえ、ほほえましく思えてしまうような無茶苦茶をしておくんだった。
 してあげるんだった。


 歌によれば、大人じゃない乙女の仕事は、恋することらしい。
 この歳にして、私はリボンを巻いた……さすがに髪型はそれなりにしたけれど。
 まだ私は、オトメに見えるかしら。
 ベッドの上からでさえ、男の影のなさを心配されていた私は、まだ取り返せるかしら。
 ね、栞。どう思う?
 もうすぐ、大学のある町での生活が始まる。先へ進む目標はいっぱいある。
 とりあえず、目標、自分の次の誕生日。こんな歌があの私を変えたって、成人式の頃にはみんなを驚かせてやるんだから。
 だから……



ステキな恋を、しよう。




2006 Algolium

posted by あるごる。 at 01:28| 東京 ☀| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記 | 更新情報をチェックする
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